Tamio Okuda

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　90年代以降の国内ロック・シンガーを代表する一人である奥田民生。「愛のために」「さすらい」などのヒット曲をもつソロのシンガー・ソングライターであり、ロック・バンドのユニコーンにおけるフロントマンであり、PUFFYを成功に導いた辣腕プロデューサーでもあり、ほかにも多数のユニットやバンドに参加するなど、彼はじつに多様な顔を持っている。そうした多才な人でありつつ、“ロック大将”などと呼ばれ人望も厚く、ギター弾き語りでぶっきらぼうに歌うだけで数多の観客を惹きつけてしまう、男臭くて親しみやすい魅力を携えたアーティストなのだ。 　奥田民生は広島県広島市生まれ。1987年に地元広島でユニコーンを結成し、90年代前半に一時代を築く人気バンドとなる。93年に解散した後、94年にファースト・シングル「愛のために」でソロ・デビュー。開放感あふれるメロディとソロとしての決意表明のような歌詞をパワフルに歌い、いきなりミリオンセラーの大ヒットを飛ばす。 　翌95年、自身の当時の年齢を冠したファースト・アルバム『29』をリリース。ニューヨークでレコーディングされ、キース・リチャーズのバック・バンドのメンバーなど凄腕ミュージシャンが参加。アーシーで骨太なバンド・サウンドと、民生の粗野なヴォーカルが程よく合致して、重量感のあるロック・アルバムに仕上がっている。ユニコーン時代とは異なる、彼のパーソナルなロック指向や内面的なソングライティングが露わになった作品といえるだろう。 　そのファーストからわずか9ヵ月後にはセカンドの『30』を出す。前作の延長線上的なロック・サウンドでありつつ、ハード・ロックやアコースティック・グルーヴの曲、後期ビートルズ的なサイケデリックなど、いっそう多彩な音作りの快作だ。 　ソロとして順調なスタートを切った後、96年にはPUFFYのプロデュースと楽曲提供を手がける。民生のビートルズ愛を全面的に投入した「これが私の生きる道」をはじめ、「アジアの純真」「サーキットの娘」「渚にまつわるエトセトラ」などのヒット曲を生み、彼はプロデューサー／ソングライターとしての才能も示してみせた。また、このPUFFYを共作した縁で井上陽水とユニット“井上陽水奥田民生”を組み、97年にアルバム『ショッピング』も出している。 　PUFFYがヒットしていたさなかの96年に、民生自身のシングル「イージュー★ライダー」もヒットし、彼はJ-POPシーンのど真ん中といえる存在になっていた。97年のミニ・アルバム『FAILBOX』はファンに人気の高い「野ばら」などを収録し、武骨で懐の深いロックやブルースを聴かせている。 　そうした勢いが、4枚目のアルバム『股旅』（98年）でひとつのピークに達する。Dr.StrangeLoveのメンバーなどのミュージシャンと民生がガッチリと組み、サイケデリック・ロック、ブギ、ブルース、カントリー、それに初期ビートルズ的マージー・ビートなどを取り込んで消化し、すべて民生のロックとして表したような、彼の力量を感じさせる傑作だ。ヒット・シングルの「さすらい」や、テンポを落としたブルージーなヴァージョンの「イージュー★ライダー'97」もここで聴ける。 　2000年代に入ると、自身のアルバム『GOLDBLEND』（2000年）、『E』（2002年）、『LION』（2004年）などをコンスタントにリリースしつつ、別ユニットやコラボレーションも増えていく。2002年に東京スカパラダイスオーケストラのシングル「美しく燃える森」にゲスト・ヴォーカルとして参加。同じ年にはChar、山崎まさよしとのユニット“三人の侍”でライヴを行なっている。さらに2003年には真心ブラザーズのYO-KINGらと4人組バンドのO.P.KINGを結成してアルバム『O.P.KING』をリリース。こうしたフットワークの軽い活動でソロとは異なる顔を見せているのも、彼の魅力のひとつといえる。 　2008年の9枚目となるアルバム『Fantastic OT9』は、民生自身が最高傑作と語っている渾身の力作。2005年から民生のライヴ・バンドを務めていたMTR&Y（民生、湊雅史、小原礼、斎藤有太）などのミュージシャンが参加し、無駄を排した簡素なロック・バンド・サウンドをバックに、民生が気持ちよさそうに歌っている。シングルの「無限の風」をはじめ、シンプルなだけに歌が際立った仕上がりで、彼の音楽における到達点ともいえるだろう。 　2009年にはユニコーンが再結成され、以降はソロとバンドを並行して活動を続けている。2015年に自主レーベルのラーメンカレーミュージックレコードを設立して独立。その第1弾アルバム『サボテンミュージアム』（2017年）は、ふたたびMTR&Yの4人編成で制作されており、ツボを得た鉄壁の演奏でディープなロックンロールやブルースを聴かせている。